学会の会計処理をスムーズに進める ~ミスを防ぐチェックポイントと効率化のコツ~

2025年08月19日

はじめに 学会ならではの会計処理とは?学会会計の基本的な特性と原則

学会の会計処理は単なる金銭管理だけでなく、組織の透明性や公共性を示す重要な業務です。ルールを守り、丁寧に運用することで、誰でも適切に遂行できます。

『引き継ぎがうまくいかない』『決算作業に苦労している』といった悩みも、本記事では、3つのステップでこれらの悩みを解決するための具体的な方法を解説します。

学会特有の会計ルールや処理ポイントを体系的に整理し、ミスを防ぎながら安定した業務遂行ができるようにナビゲートします。

学会の会計処理をスムーズに進めるには、マニュアル作成とPDCA (Plan[計画]-Do[実行]-Check[評価]-Action[改善]の4段階)が大切です。

ここでのヒントが、非営利団体としての信頼性を高め、会員や社会に対する説明責任を果たすための「実務のベースライン」となることを願っています。

1. ルールに沿った処理がミスの予防と安心感につながる

学会の会計処理で最も重視すべきは、「定められたルール」(各種法令、学会規則、国際基準)を遵守して業務を進めることです。この実践が、会計上のミスの発生を未然に防ぎ、関係者全員が安心して学会運営に携われる強固な基盤を築きます。

1.1. 学会会計における基本的な会計原則と規程の理解を深める

学会会計の企業会計とは異なる独自の特性

学会の会計は、一般的な企業会計とは異なる独自の特性を持っています。

営利を目的としない活動であること、会員からの会費や寄付金、大会参加費などが主な収入源となること、そしてその使途が学術振興や社会貢献に限定される点が特徴です。

一般社団法人やNPO法人として登記されている場合は、それぞれの法人格に適用される会計基準や特定非営利活動促進法(NPO法)に定められた会計原則に従う必要があります。

このような特性を理解して適切な会計処理を行うことは、学会の健全な運営を保ち、社会からの信頼を確固たるものにする上で不可欠です。

学会の会計は、単に金銭の出入りを記録するだけではありません。予算の策定から決算報告までの一連のプロセスを通じて、活動の透明性を確保し、会員への説明責任を果たすという重要な役割を担っています。

これらの原則は、会計帳簿の正確な記帳や、計算書類の真実性の明示、会計処理基準の継続適用(会計処理の決まりは一度採用したものを毎期継続する)などを厳しく求めています。学会内に独自の会計規程や細則がある場合は、まずそれらを注意深く熟読し、内容を深く理解することが肝要です。

特に、収益事業の有無、会費の取り扱い、寄付金の使途制限など、学会特有の項目については、詳細な確認が欠かせません。これらの規程は、学会の財務活動における「憲法」とも言えるものであり、全ての会計処理の揺るぎない根拠となります。

「アレ?」と少しでも感じたら、そのままにせず、必ず事前に専門家や関係省庁に確認し、疑問を解消しておきましょう。各種の会計基準や法令は都度変更されています。思い込みでの処理にはリスクが伴いますので要注意です。

(参考)

NPO法人の会計とは? NPO法人会計基準の必要性と役割について詳しく解説|フリー株式会社

https://www.freee.co.jp/kb/kb-npo/accounting_standards

特定非営利活動促進法により設立されたNPO法人の法人税法上の取扱い|国税庁

https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/21/14.htm

1.2. 予算策定と実績管理で透明性を高める

学会運営における会計の透明性を高める上で、予算策定は最初の重要なプロセスです。予算は、学会が今後どのような活動に、どの程度の資金を投入するのかを示す具体的な計画であり、学会の方向性を明確にする羅針盤の役割も果たします。

収入と支出を綿密に予測し、各事業に必要な費用を具体的に計上することで、無駄を排した効率的な資金運用が実現可能です。予算策定後は、その予算と実際の収支を比較する実績管理が不可欠です。

定期的に予算と実績の差異を詳細に確認し、乖離が生じている場合はその原因を徹底的に分析します。そして必要に応じて、予算の見直しや事業計画の柔軟な調整を行うことで、予期せぬ赤字の発生を未然に防ぎ、健全な財務状況を維持できるでしょう。

特に、大規模な学術大会や国際会議を開催する際は、参加者数や展示会出展料収入など、多岐にわたる項目を詳細に予測し、柔軟な予算管理体制を構築することが求められます。

(参考)

国際学会に必要な予算作成とは? | これからの学会.com

https://korekaranogakkai.com/contents/necessary-budgets-international-conference

ここが知りたいコンベンション「予算作成と収支管理」について|日本政府観光局(JNTO)

https://mice.jnto.go.jp/organizer-support/about-convention/2218.html

2. 支払い・精算・記録の流れを整理し、作業負荷を軽減する

日々の会計業務を円滑に進めるには、支払い、精算、そして記録の一連の流れを明確に整理し、効率的な仕組みを構築することが大切です。

この取り組みによって、実務担当者の作業負荷を大幅に軽減し、会計上のミスを効果的に抑制できます。

2.1. 効率的な支払い・精算プロセスを構築する

学会における支払いと精算のプロセスを効率化することは、業務の迅速化と正確性の向上に直結します。まず、支払いの際には、請求書の受領から承認、銀行振込に至るまでの手順を明確に定めておくことが肝要です。

可能であれば、学会名義の銀行口座からの振込を原則とし、支出の事実と金額を明確に記録できるようにすることが望ましいでしょう。ネット銀行(楽天銀行や住信SBIネット銀行、イオン銀行など)を利用すると、各種データの帳票をいつでも安価に取り出せるため便利です。

少額の交通費など、領収書を徴しにくいものについては出金伝票を積極的に活用し、支出の事実、金額、科目を詳細に記録・保管するルールを徹底します。例えば、「領収書がない場合は出金伝票を作成し、何にいくら使ったかを明確に記録する」(〇〇委員会の交通費2,000円を立て替えた場合)といった具体的なルールを定めておくとよいでしょう。

経費精算においては、領収書の管理が特に重要です。学会参加費や交通費など、経費として計上する全ての項目について、支払金額や日付が明記された領収書を確実に保管するよう、関係者への周知徹底が求められます。この場合も「手書領収書」は避けて、レジのレシートやプリントアウトされた領収証が望ましいです。

また、法人カード(VISAやMasterCardなど)の導入は、立替払いを解消し、経費のリアルタイム把握を可能にするなど、精算業務の効率化に大きく貢献します。出張に伴う日当の支給も、実費精算の手間を省き、業務効率化につながる場合があります。これらのルールは、定期的に見直し、学会の実態に合わせて柔軟に対応する必要があります。

(参考)

経費精算を効率化・簡略化する方法や取り組むメリットについて解説|三井住友カード

https://www.smbc-card.com/hojin/magazine/tips/efficiency-simplification.jsp

2.2. 会計記録の正確性と保管を徹底する

全ての会計取引は、正確かつタイムリーに記録される必要があります。収入については、会費、大会参加費、寄付金などを、それぞれ適切な勘定科目で仕訳(取引内容を勘定科目に分けて記録すること)を行います。

特に、消費税について学会費(年会費)は課税対象外(不課税)として扱われることが多いですが、講習会参加費や懇親会参加費などは課税対象となる場合があるため、取り扱いには細心の注意が必要です。税制上の区分(課税/非課税/不課税/免税)を明確にして臨みます。

【税制上の区分(課税/非課税/不課税/免税)と具体例】

区分概要代表的な取引例
課税消費税が発生する取引抄録集・講演要旨の販売、通信費、印刷代、講習会参加費、懇親会参加費、展示料(企業出展ブース等)など
非課税法令により消費税がかからない取引学会の預金に対する利息、保険料など
不課税消費税の対象外会員からの年会費・入会金、会員からの大会参加費、海外の学会への参加費など
免税条件により消費税が免除される取引海外の購入者への学会誌などの直接販売、国際郵便での学会誌の送付など

(出典:国税庁Webサイトを参考に作成)

支出についても、会議費、旅費交通費、印刷製本費など、細かく分類して記録することで、後からの検証が格段に容易になります。

会計帳簿は、正規の簿記の原則に従って正しく記帳し、すべての取引が領収書などの客観的な証拠によって確認できる検証性を確保することが強く求められます。

また、一度採用した会計処理の基準や手続きは、毎事業年度継続して適用します。みだりに変更しない継続性の原則を守ることが、年度比較を容易にします。これらの記録は、将来の監査や税務申告だけでなく、事業年度ごとの比較分析にも役立ちます。物理的な書類だけでなく、デジタルデータも含めて、定められた期間、適切に保管することが義務付けられます。

(参考)

学会費用の勘定科目は? | これからの学会.com

https://korekaranogakkai.com/contents/conference-fees-account

【図解】課税・非課税・不課税・免税の違い|消費税の区分|経理のお仕事.com

https://keirinooshigoto.com/1829

2.3. 会計ソフト導入で学会の会計業務を効率化

学会の会計処理をさらにスムーズにするには、会計ソフトの導入も有効です。「NPO法人」「一般社団法人」にも対応しているソフトの選定は大切です。特にクラウド型ソフトは(例:「マネーフォワードクラウド」)、次のような大きなメリットをもたらします。

(1) 作業の自動化とミス削減

銀行口座連携で取引を自動仕訳し、入力のミスを大幅に削減。経費精算もスマホで完結しペーパーレス化が進みます。

(2) リアルタイムな財務把握

最新の収支状況や資金残高をいつでも確認でき、予算実績管理や迅速な意思決定を支援します。

(3) 決算業務の効率化と引き継ぎの容易さ

必要な帳票が自動生成され、決算作業の負担を軽減。データがシステム内に集約されるため、担当者間の情報共有や引き継ぎもスムーズになります。

会計ソフト選定時は、非営利会計への対応、使いやすさ、サポート体制、費用対効果、そしてセキュリティを重視します。無料トライアルを活用し、実際に操作感を試すことも大切です。

適切な会計ソフトを選ぶことで、学会の会計業務はより効率的で信頼性の高いものになるでしょう。

【会計ソフト導入による効果】※小規模学会(会員数100名以下)の事例

項目導入前の課題導入後の効果
会計処理担当者が手作業でExcelにデータを入力。入力ミスや計算ミスが頻発。毎年、決算作業に膨大な時間がかかっていた。クラウド型会計ソフトを導入。銀行口座との自動連携で、入出金データが自動で取り込まれ、仕訳作業が不要になった。担当者の入力ミスがなくなり、作業時間が7割削減された。
経費精算領収書を紙で管理。紛失リスクや保管場所に困っていた。精算手続きが煩雑。立て替え払いが多く、担当者の負担が大きかった。会計ソフトのスマホアプリを活用。担当者は領収書をスマホで撮影・アップロードするだけで経費精算が完了。レスペーパー化が進んだ。いつでもどこでも精算できるようになった。
引き継ぎ担当者ごとにExcelのフォーマットが違っていた。マニュアルも不十分で、引き継ぎに2〜3ヶ月を要していた。担当者間のデータ共有が容易になった。引き継ぎ作業が大幅に簡素化。システム内に過去のデータがすべて集約されているため、担当者以外でも現状を把握できるようになった。

(参考)

【2025年版】公益法人向け会計ソフト比較おすすめ8選!選び方のポイントも解説|ミツモア

NPO法人会計基準とは?基本の考え方や構成の解説|株式会社マネーフォワード

3. 外部監査・税務申告への対応と情報公開の視点

学会の会計処理は、内部的な管理にとどまらず、外部からの監査や税務申告、そして会員への情報公開といった側面も持ち合わせています。これらの外部とのやり取りを適切かつ円滑に行うことで、学会の信頼性はさらに揺るぎないものとなります。学会のホームページでは、財務状況を開示するページを制作しましょう。

3.1. 外部監査への準備と税務申告のポイントを押さえる

規模の大きい学会や、特定の法人格を持つ学会においては、外部監査が義務付けられている場合があります。外部監査は、学会の財務諸表が適正に作成されているかを独立した第三者が検証するものであり、学会会計の信頼性を担保する上で重要なプロセスです。

監査に際しては、会計帳簿、領収書、請求書、銀行預金通帳など、全ての関連書類を整理し、いつでも提示できる状態にしておくことが求められます。前回の監査で指摘された改善事項の是正状況も正確に把握し、報告できるように準備しておきます。

また、学会は非営利団体であっても、法人税法に定める収益事業を行っている場合には、税務申告および納税の義務が生じます。例えば、非会員への会誌販売、会誌への広告掲載、学会大会での企業ブース出展料などが収益事業とみなされる可能性があります。これらの事業から生じた利益に対しては法人税が課されます。収益事業と非収益事業の区分(物品販売と会費など)を明確にし、適切な経理処理を行うことです。経理体制が整っていれば、税額が発生しない場合でも正しく納税額を計算できます。

(参考)

令和6年版 法人税のあらましと申告の手引|国税庁

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hojin/aramashi2024/01.htm

3.2. 会計情報の透明性を確保し、会員への説明責任を果たす

学会の会計情報は、会員からの会費や寄付金によって支えられているため、その使途については高い透明性が求められます。定期的な会計報告を通じて、学会の財政状況や事業活動の成果を会員に明確に伝えることは、会員の理解と信頼を深める上で非常に重要です。

年次報告書や総会資料として、活動計算書、貸借対照表、財産目録などを公開し、誰が見ても分かりやすい形式で情報を提供することが望ましいです。情報公開にあたっては、閲覧者が容易に情報にアクセスできるよう、学会のWebサイトなどで公開情報を掲載し、印刷制限をかけないなどの配慮も必要となります。

会計情報の透明性を確保することは、学会のガバナンスを強化し、社会的な説明責任を果たすことにつながります。これにより、会員は安心して学会活動に参加でき、外部からの支援も得やすくなります。

(参考)

事業内容 – 会計|学会支援機構

https://www.asas.or.jp/asas_contents/2_3accounting.html

まとめ PDCAで進化する!マニュアル活用のための5つの工夫

学会の会計処理は、多岐にわたる業務であり、担当者の交代などによって業務の引き継ぎがスムーズにいかないリスクも常に存在します。このような事態を避け、継続的に安定した会計処理を行うためには運用マニュアルの整備が必須です。

効果的な運用マニュアルは、単なる業務手順の羅列にとどまらず、会計処理の目的、各勘定科目の明確な定義、支払い・精算・記録の具体的な流れ、使用する様式、そしてよくある質問とその対応策などを網羅的に記述すべきです。

マニュアルの活用度を最大限に高めるには、いくつかの工夫が肝心です。

(1) 誰でもわかる表現で作成

専門用語を避け、初学者でも理解しやすい平易な言葉で記述し、複雑なフローはフローチャートや図解を用いて視覚的に分かりやすく表現します。

(2) 最新情報の提供

税制改正や学会の規程変更など、関連する情報が更新された際には、速やかにマニュアルの内容を修正し、常に最新の状態を保つ必要があります。

(3) 担当者の意見反映

実際に会計業務を担当する方々の意見を積極的に取り入れ、実務に即した内容とすることで、より実践的なマニュアルへと磨き上げられます。

(4) デジタル化を推進

マニュアルをデジタルデータとして管理し、検索性を高めることで、必要な情報に素早くアクセスできるようにします。クラウドストレージなどを活用して、関係者間で共有しやすい環境を整えることも有効です。

(5) 定期的な見直しと研修で進化

マニュアルを基にした定期的な研修を実施し、新任者への教育を行うとともに、既存の担当者も知識を再確認する機会を設けます。加えて、年に一度はマニュアル全体を包括的に見直し、改善点がないかレビューする場を設けることをお勧めします。

PDCAを回し、適切な会計処理を進めることは、学会の活動を支える重要な柱です。会計処理の仕組みづくりが、業務の引き継ぎを円滑にする基盤となります。本記事が、学会の会計業務に携わる多くの方々(経理担当者、委員会スタッフ、委員長、監査担当など)の一助となり、よりスムーズで信頼性の高い学会運営に貢献できることを期待しています。

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