Zoom活用で実現する新しい学会会議スタイル ~対話と参加を支えるハイブリッドの仕組み~

2025年08月19日

はじめに Zoomによる学会交流の最新スタイルと活用術

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を機に、多くの学会でオンライン開催やハイブリッド開催が急速に普及しました。従来の会場での対面開催に加え、ZoomをはじめとするWeb会議システムを活用した新しい学会運営スタイルは、地理的制約を超えた参加を可能にし、学術交流のあり方を大きく変えています。

ハイブリッド型の学会運営は、現地参加者とオンライン参加者の双方に価値ある体験を提供しますが、「体験の格差」にどのように対応すべきか悩まれる方も少なくないでしょう。

一方で、適切な準備と運営体制を整えることで、従来の対面開催を上回る多様性と包容力を持った学会を実現できます。例えば、ある製薬会社の研修会では、オンライン参加者の満足度が90%を超える事例も報告されており、ハイブリッド運営の可能性を示唆しています。

本記事では、Zoomを活用したハイブリッド学会の運営において、参加者の満足度を高め、学術的な価値を最大化するための実践的な手法をご紹介します。技術的な配信設計から現場でのサポート体制まで、学会事務局の皆様が直面する課題に対する具体的な解決策を一緒に考えていきましょう。

(参考)

本連載シリーズの記事も参考にしてください。

「対面開催とオンラインの良さを活かす!~ハイブリッド学会の設計と運営の実践ガイド~」

1.ハイブリッド学会を成功させる配信設計と現地サポートの秘訣

ここでは、高品質な音響・映像環境の構築と、参加者体験の統一を実現するための具体的な手法を解説します。ハイブリッド型カンファレンスでは、配信環境の整備とサポート体制が不可欠です。大会や学術会議の規模やセッションの特性に合わせて、Zoomの多彩な機能を活用しましょう。

1.1. 音響・映像環境の最適化と機材選定

ハイブリッド学会の成功は、音響と映像の品質が参加者の体験を左右する重要な要素となります。現地参加者とオンライン参加者の双方が快適に聴講できる環境を構築するために、次のポイントを参考にしてください。

(1) 音響環境

オンラインと現地参加者の間に音質・画質の差を感じさせないことが、成功に導く鍵です。音響面では、会場のマイクから直接Zoomに音声を入力する際、ハウリングや音声の途切れを防ぐため、オーディオインターフェースの導入が効果的です。また、発表者用と質疑応答用のマイクを分離し、それぞれの音声レベルを調整することで、オンライン参加者にも聞き取りやすい音響環境を整えられます。

(2) 映像環境

発表スライドと発表者の両方を同時に配信するためのカメラワークも重要です。高解像度Webカメラを複数台設置し、発表者の表情や会場の雰囲気を効果的に伝える構成を検討します。ポスターセッションや展示ブースをオンライン参加者にも体験してもらうためには、可動式のカメラや360度カメラの活用も有効です。

(参考)

本連載シリーズの記事も参考にしてください。

「Zoom配信における音響設計と会場マイク設定の基本〜伝わる声が学会を変える〜」

1.2. 参加者体験の統一と双方向性の確保

現地参加者とオンライン参加者の体験格差を最小限に抑えることは、ハイブリッド学会運営の重要な課題です。両者が同等の学術的価値を得られるよう、配信内容の構成や参加方法に創意工夫を凝らす必要があります。

質疑応答セッションでは、現地とオンラインの両方から発言を受け付けるためのルール設計が必須です。Zoomのチャット機能やリアクション機能を活用し、オンライン参加者からの質問を効率的に収集・整理する体制を整えましょう。司会者は現地の質問者とオンラインの質問者を公平に指名し、全参加者が議論に参加できる雰囲気づくりが大切です。

また、ネットワーキングの機会を提供するために、Zoomの「ブレイクアウトルーム機能」を活用した小グループディスカッションや、専用のオンライン懇親会の開催も検討に値します。こうした交流の場こそが学会の醍醐味と言えます。

(参考)

学会を効率化する方法を徹底解説! おすすめのシステムもご紹介します。|これからの学会.com

ブレイクアウトルーム機能の使い方|東京大学 utelecon

https://utelecon.adm.u-tokyo.ac.jp/zoom/usage/breakout

2.トラブル予防・現場連携・支援体制の整備方法

どのようなシステムでも不測の事態はつきものです。最悪な状況を想定した中で、必要な準備や人員体制について考えてみましょう。不測の事態に備えるための事前準備と、当日の円滑な運営を支えるチーム体制を整えることが重要です。「想定外」と後々ならないように「想定内」で準備を進めることがポイントです。

2.1. 事前テストと機材準備の徹底

ハイブリッド学会を成功に導くためには、入念な事前準備が不可欠です。本番の数日前から会場での機材テストを実施し、音響・映像・通信環境のすべてを確認する必要があります。特に、発表者がリモートから参加する場合には、事前に接続テストを行い、画面共有や音声品質に問題がないことを確認しましょう。

機材の冗長化も重要な要素です。メインのパソコンやカメラに加え、バックアップ用の機材を準備し、トラブル発生時にも配信を継続できる体制を整えます。インターネット接続についても、有線LANと無線LAN、さらにはモバイル回線を併用することで、通信障害のリスクを最小化できます。スターリンクのような遠隔地での通信手段を確保しておくと、より一層安心です。

発表者向けには、Zoomの操作方法や画面共有の手順を説明したマニュアルを事前に配布し、不明な点があれば事前相談を受け付ける窓口を設置することで、当日のトラブルを予防できます。この準備段階での丁寧な対応が、当日の成功につながります。

2.2. リアルタイム対応チームの役割分担

ハイブリッド学会の運営では、現地とオンラインの両方に対応できる専門チームの設置が不可欠です。技術担当者、司会進行担当者、参加者サポート担当者の役割を明確に分担し、それぞれが連携して問題解決にあたる体制を構築します。

(1) テクニカルサポート

技術担当者は、Zoomの操作全般、音響・映像機器の調整、通信トラブルの対応を担当します。

(2) モデレーター

司会進行担当者は、現地とオンラインの参加者を統一的にマネジメントし、質疑応答や休憩時間の調整を行います。

(3) サポーター

参加者サポート担当者は、オンライン参加者からの技術的な質問や接続トラブルに対応し、学会への参加を支援します。

これらの担当者間の連絡手段として、免許不要の小電力トランシーバーを使ったインカムシステムや専用のチャットツールを活用し、迅速な情報共有と対応を可能にすることが重要です。特に、オンライン参加者からのトラブル報告を現地の技術担当者に即座に伝達できる仕組みの整備が求められます。

2.3. 緊急時対応マニュアルの作成と運用

想定されるトラブルシナリオに対する対応手順を事前にマニュアル化することが大切です。運営チーム全体で共有することで、緊急時にも冷静かつ迅速に対応できます。通信障害、機材故障、発表者の接続トラブルなど、起こり得る問題を想定しそれぞれに対する具体的な対応策の準備が大切です。

トラブル発生時の参加者への情報提供も重要な要素です。Zoomのチャット機能や学会のWebサイト、SNSアカウントを活用して、現在の状況や復旧見込みを定期的にアナウンスし、参加者の不安を軽減する努力に取り組みましょう。透明性のある情報提供は、参加者の不安解消と信頼維持につながります。

オンライン学会のメリット・デメリットと活用法|エナゴアカデミー

https://www.enago.jp/academy/networking-conference/amp

3.“つながる学会”をつくるエンゲージメント強化術

ここでは、Zoomの機能を活用し、参加者の積極的な関与を促すための具体的な方法を解説します。

エンゲージメントとは、参加者がどれだけ積極的に関わっているかを示す概念です。参加者の意欲や集中度を高めるための仕掛けや仕組みを考えてみましょう。

3.1. インタラクティブ機能の効果的活用

Zoomの多彩な機能を活用することで、オンライン参加者のエンゲージメントを大幅に向上させることができます。投票機能を使ったリアルタイムアンケートや、ホワイトボード機能を活用した協働作業は、従来の対面開催では実現困難な新しい学術交流の形を生み出します。

特に大規模な学会においては、チャット機能を通じた質問収集や意見交換が活発化し、発表者と参加者、さらには参加者同士の議論を促進する効果が期待できます。これらの機能を適切に活用することで、物理的な距離を超えた一体感のある学会運営が可能になるのです。

3.2. アーカイブ活用による継続的な学習機会の提供

Zoomの録画機能を活用した学会アーカイブは、参加者にとって貴重な学習リソースとなります。リアルタイムでの参加が困難だった研究者や、復習のために内容を再確認したい参加者にとって、アーカイブへのアクセスは学会参加の価値を大幅に向上させます。

アーカイブの公開にあたっては、発表者の著作権や学会の知的財産権に配慮した利用規約の策定が必要です。会員限定公開、期間限定公開、一部セッションのみの公開など、学会の方針に応じた柔軟な運用を検討しましょう。

さらに、アーカイブを活用した継続的な教育プログラムの展開も視野に入れたいところです。若手研究者向けの学習コンテンツとしての活用や関連学会との知識共有など、録画データの二次利用による“新たな価値創造”を検討することで学会の社会的影響力を拡大できます。

(参考)

本連載シリーズの記事も参考にしてください。

「後日視聴で研究と学びをつなぐ〜学会オンデマンド配信の効果と工夫〜」

まとめ より多くの参加者に開かれた学会づくりをめざして

Zoomを活用したハイブリッド学会運営は、従来の対面開催の限界を超えた新しい学術交流の可能性を開拓しています。地理的制約や物理的制約を超えて、より多様な背景を持つ研究者が学会に参加できる環境は、学術コミュニティ全体の発展に大きく貢献します。

技術面での課題や運営の複雑さは確かに存在しますが、適切な準備と体制整備により、これらの課題を乗り越えることは十分に可能です。

音響・映像環境の最適化、トラブル対応体制の構築、参加者エンゲージメントの向上といった要素を総合的に検討し、現地参加者とオンライン参加者の双方にとって価値ある体験を提供する学会運営を実現できます。

今後も技術の進歩とともに、ハイブリッド学会の運営手法はさらに洗練されていきます。学会事務局の担当者や運営責任者は、参加者のニーズを的確に把握し、継続的な改善を通じて、より包容力のある学術コミュニティの形成に貢献することが求められます。

新しい時代の学会運営は、“技術と人の温かさを融合”させた、これまでにない豊かな学術交流の場を創造する大きな可能性を秘めています。

(参考)

オンラインプラットホームの利用で広がるハイブリッド型カンファレンスの可能性|大学ICT推進協議会

https://axies.jp/_files/conf/conf2022/paper/13PM2B-1.pdf

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